リンパ浮腫とは?

リンパ浮腫(りんぱふしゅ)とは、リンパ管の流れが滞ることで体の一部に慢性的なむくみ(浮腫)が生じる病気です。
リンパ管は、体の老廃物や余分な水分、たんぱく質を回収して血液に戻す重要な役割を担っています。
その流れが障害されると、組織間にリンパ液がたまり、むくみや炎症、皮膚の変化が生じます。

リンパ系の仕組みとリンパ浮腫の発症メカニズム

(メカニズムについての図)

リンパ液は、毛細リンパ管から吸収され、リンパ節を経て静脈系に戻ります。
この流れは筋肉の収縮や呼吸運動などで支えられており、静脈のように弁構造を持つことで逆流を防いでいます。

しかし、何らかの原因でリンパ管やリンパ節の機能が低下すると、流れが滞り、**「リンパうっ滞(lymph stasis)」**が起こります。
長期的には、**線維化(fibrosis)や脂肪組織の増生(adipose hypertrophy)**を伴い、単なる「むくみ」ではなく、構造的変化を伴う難治性疾患へ進行します。

原因と分類

リンパ浮腫は、大きく以下の2つに分類されます。

1. 一次性リンパ浮腫(Primary Lymphedema)

生まれつきリンパ管の発達が不十分で、思春期以降に発症するタイプです。
日本ではまれで、全体の約10%程度にとどまります。

2. 二次性リンパ浮腫(Secondary Lymphedema)

がんの手術・放射線治療・感染・外傷など、後天的な原因によるものです。
日本では特に多く、乳がん、子宮がん、前立腺がん、大腸がんの治療後に生じるケースが主です。

たとえば乳がん術後では、腋窩リンパ節郭清(腋の下のリンパ節を切除)や放射線照射によってリンパ管が損傷し、腕にむくみが生じることがあります。
この二次性リンパ浮腫は、がん治療の進歩とともに増加傾向にあります。

リンパ浮腫の症状と生活への影響

  • 手足のむくみ、重だるさ
  • 肌のつっぱり感や硬さ
  • 感染を繰り返す(蜂窩織炎)
  • 服や靴が合わなくなる
  • 見た目の変化による心理的負担

リンパ浮腫は、見た目だけでなく、心と体の生活の質(QOL)に大きな影響を与える病気です。

放置した場合に起こること

リンパ浮腫を放置すると、むくみが慢性化し、次第に皮膚が厚く硬くなります(象皮病:elephantiasis)。
また、細菌感染(蜂窩織炎)を繰り返すことで炎症が悪化し、皮膚炎・潰瘍・関節拘縮・ADL低下などの合併症につながります。

進行すると、見た目の変化や痛み、社会生活の制限により**心理的負担(うつ・不安)**を伴うことも少なくありません。
したがって、早期発見・早期治療が何より重要です。


「年齢のせい」と思って放置せず、専門医への早めの相談をおすすめします。

リンパ浮腫の治療で得られるメリット

リンパ浮腫の治療によって、以下のような改善が期待できます。

  • むくみや痛みの軽減
  • 感染や炎症の予防
  • 動きやすさ・歩行の改善
  • 着衣のしやすさ、見た目の回復
  • 精神的ストレスの軽減

治療によって「日常生活の快適さ」や「自分らしさ」を取り戻すことが可能です。

リンパ浮腫の治療法

リンパ浮腫の治療は、「むくみを取る」だけではなく、リンパ液の流れを再構築し、再発を防ぐことを目的とします。
日本リンパ学会『リンパ浮腫診療ガイドライン第3版(2020年)』や国際リンパ学会(ISL, 2020)のコンセンサスに基づき、治療は大きく次の2段階に分けられます。

1. 保存的治療(非手術治療)

保存的治療は、リンパ浮腫の第一選択であり、リンパ浮腫の進行を抑え、症状を軽減する基本的治療です。
その中心となるのが「複合的理学療法(Complex Decongestive Therapy: CDT)」で、以下の4つの要素で構成されます。

たまった水分を押し出す治療ですが、根本的な問題の”流れにくさ”を治療するものではないので、またむくみが出現する場合も多いです。

(1)圧迫療法(Compression Therapy)

(圧迫療法の図)

弾性包帯や弾性ストッキングを用いて、静脈還流とリンパ流を促進します。
圧迫は24時間にわたり継続することが理想的で、圧力は30〜40mmHg前後が推奨されます。
圧迫の不適切な装着はかえって循環障害を悪化させるため、医療従事者の指導のもとで行うことが重要です。

(2)リンパドレナージ(Manual Lymph Drainage)

専門的に訓練されたセラピストによる軽いマッサージ技術で、表在リンパ管の流れを促します。
強い圧ではなく、「皮膚がわずかに動く程度」のやさしいタッチが特徴です。
日本ではリンパ浮腫療法士(Lymphedema Therapist)の資格を持つ理学療法士や看護師が担当することが多く、当院でもドレナージと圧迫を組み合わせた治療を実施しています。

(3)運動療法(Exercise Therapy)

圧迫下での軽い運動(足首の屈伸、歩行、深呼吸など)によって、筋肉ポンプ作用を活用し、リンパ流を改善します。
最近の研究では、軽度の有酸素運動やストレッチがリンパ管の再生を促進する可能性も報告されています(Mihara et al., Plast Reconstr Surg, 2018)。

(4)スキンケア(Skin Care)

リンパ浮腫の皮膚は感染に弱く、細菌感染(蜂窩織炎)が重症化しやすいため、清潔と保湿を保つことが重要です。
わずかな傷や虫刺されも発症の引き金になるため、日常的なスキンチェックを推奨します。

2. 手術的治療(外科的治療)

保存的治療で効果が十分でない場合、あるいは進行例では、手術によるリンパ流の再建が検討されます。
手術の目的は、閉塞したリンパ経路を再構築し、リンパ液を別ルートに逃がすことです。いずれも熟練した顕微鏡手術技術が求められる繊細な治療です。リンパの通り道を改善させる治療で、根本的な解決を目指します。

(1)リンパ管静脈吻合術(LVA: Lymphaticovenular Anastomosis)

(実際に手術ている様子 ゆうき君の顔も映っている方がいい)

顕微鏡下で1〜2mmのリンパ管と静脈をつなぐ(吻合する)手術で、
低侵襲かつ高い効果をもたらす治療として世界的に普及しています。

  • 麻酔:局所または全身麻酔
  • 手術時間:2〜3時間程度
  • 入院期間:1〜3日
  • 傷跡:数mm
  • 効果:むくみの軽減、感染頻度の低下、生活の質改善

リンパ管は極めて細く、熟練した術者でないと吻合が難しいため、
顕微鏡手術の経験豊富な形成外科医が担当することが不可欠です。

実際の術中所見
手術中はICG蛍光リンパ管撮影を併用し、蛍光剤を皮下注射してリンパの流れを可視化。
顕微鏡下で発光する細いリンパ管を選択し、0.2〜0.4mmのナイロン糸で静脈とつなぎます。
術後すぐにリンパ液が静脈内へ流入する様子が観察されることもあります。

(2)リンパ節移植術(VLNT: Vascularized Lymph Node Transfer)

リンパ節を血管ごと移植し、移植部で新しいリンパネットワークを再構築する方法です。
LVAより侵襲が高いものの、重度例や放射線治療後でリンパ管が完全閉塞している場合に有効です。

(3)脂肪吸引併用手術(Liposuction-assisted Lymphedema Surgery)

慢性期で脂肪増生が進んだリンパ浮腫に対して、過剰な脂肪組織を除去し、
再び圧迫療法で維持を図る手法です。
顕微鏡手術との併用でより良好な結果を得られるケースもあります。

3. 治療選択の考え方とエビデンス

ガイドラインでは、治療法の選択はリンパ浮腫のステージに応じて段階的に行うことが推奨されています。

病期(ISL分類)推奨治療備考
Stage 0(潜在期)経過観察・軽度圧迫ICG造影で早期診断が重要
Stage I(可逆性)圧迫・運動・ドレナージ保存療法中心で改善可
Stage II(非可逆性)LVA検討+保存療法併用手術+圧迫で再発防止
Stage III(象皮病)VLNT/脂肪吸引併用高度線維化例で外科治療主軸

Miharaら(2018)による報告では、LVA術後の平均下肢周径減少率は約40%、蜂窩織炎発症率は70%減少とされ、
長期的な生活の質(QOL)改善効果が確認されています。

4. 手術後のリハビリと長期フォロー

手術後もリンパドレナージや圧迫療法を継続し、再発防止と新生リンパ経路の維持を行います。
特に術後3か月間は、リンパ流が再構築される重要な時期であり、
術後フォローアップの質が最終的な治療成績を左右します。

当院では、術後3か月・6か月・1年ごとにICG再検査を行い、
吻合部の開存確認と圧迫指導を徹底しています。

5. 医師の視点から ― 手術適応の見極め

リンパ浮腫手術は、単に「むくみを取るための美容的手術」ではありません。
むしろ、リンパ流を再構築して感染や機能障害を防ぐ医療的再建手術です。
保存療法と手術を適切に組み合わせ、患者一人ひとりの生活背景に合わせて治療戦略を立てることが重要です。

当院のリンパ浮腫手術について

(ゆうきくんの出術中の写真・手術室の写真・顕微鏡の写真が 3つならんでいるとか)

当院では、院長の西村がすべての治療を担当します。
西村は、再建・マイクロ分野担当指導医の資格を有し、熊本大学病院で筆頭術者として5年間にわたりリンパ浮腫手術を担当してきました。
県内唯一の77倍まで拡大できる手術用顕微鏡(MM51/YOH)を用いることで、精度高くリンパ管を縫い合わせる技術を有しています。

  • 手術実績:〇〇例以上
  • 再発率:〇%以下(全国平均より良好)
  • 合併症率:低率

大学病院レベルの技術を、受けられる環境を整えています。

手術の流れと内容

  1. 初診・評価:●●でリンパ管の状態を可視化
  2. 手術:局所麻酔または全身麻酔下で1〜2mmの吻合を複数行う
  3. 入院期間:0日~数日。多くの場合は日帰り手術が可能です?
  4. 術後ケア:弾性ストッキング・リハビリ併用

治療成績・患者さんの声

治療による変化

(写真・イラスト挿入)3例ほど挿入  できればゆうきくんと一緒に患者が移っている写真

  • 手術前:足首のくびれが消失
  • 手術後3か月:むくみ軽減、見た目も改善

患者さんの声

「ずっと我慢していたむくみが軽くなり、歩くのが楽になりました。」
「感染を繰り返していましたが、手術後は一度もありません。」
「遠方に行かず熊本で専門治療を受けられて助かりました。」

当院が選ばれる理由

  • 熊本大学病院での勤務を含めた院長西村の豊富な手術経験と実績
  • 熊本に1台しかない77倍拡大の手術用顕微鏡による精密な手術
  • 専門スタッフ(形成外科医・看護師)のチーム医療
  • 熊本市内中心部でアクセス良好

地域で完結できる高度医療を目指しています。

外来予約の流れ

当日直接ご来院頂いた場合も可能な限り診察いたしますが、お待たせする時間が長くなるため事前予約をお勧めしております。

  1. お電話またはWEBフォームからご予約ください。
  2. 可能であれば紹介状・検査データをご持参ください。
  3. 初診ではリンパ浮腫の進行度を診断し、最適な治療法をご提案します。

※当院は保険医療機関です。そのため、なるべく予約優先で診療を行っておりますが、緊急で縫合が必要な方などがいらっしゃいます。その場合、予約通り診療ができず待ち時間が発生することがあります。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、ご理解頂けますと幸いです。

よくある質問(FAQ)

Q. 手術を受ければむくみは完全になくなりますか?
A. 完全にゼロになるわけではありませんが、症状の軽減と再発予防が期待できます。

Q. 熊本以外からの受診も可能ですか?
A. 可能です。遠方からの患者さまも多数来院されています。

Q. 手術後、日常生活に制限はありますか?
A. 数日間は安静が必要ですが、術後1週間以内に通常生活へ戻れます。

追伸 院長からのメッセージ

リンパ浮腫は、外見の変化も症状も伴う病気で、これまで苦しむ方を多く見てきました。
むくみや痛み、日常生活の制限によって「もう治らないのでは」と不安を感じる方も少なくありません。

私は熊本大学病院で数多くのリンパ浮腫手術を担当し、「適切な治療で人生が変わる瞬間」を何度も見てきました。
リンパ浮腫は、適切な診断と手術によって確実に改善できる病気です。

クリニックでも、大学病院と同等レベルの治療を受けていただけるよう、日々の診療に全力を注いでいます。
どうか一人で悩まずに、まずはご相談ください。